腸の中に菌がいて体調に関係しているように、肌にもたくさんの菌が住んでおり皮膚の健康に関わっています。
多くの人の皮膚に住んでいて、病原性のない菌を「皮膚常在菌」と呼びます。「常在菌叢」「皮膚フローラ」とも言います。
皮膚常在菌は、大きく2つに分かれます。
1.人体に有用な菌
表皮ブドウ球菌などの有用菌は、有害な菌が皮膚に侵入するのを防いでくれています。保湿や活性酸素除去など、美肌の維持にも貢献しています。
2.普段は無害だが、状況によって人体に害をなす日和見菌
黄色ブドウ球菌などの日和見菌は基本的には人体に無害です。しかし、病気・ケガ・不摂生などで体調が悪くなり有用菌が弱ると、悪玉菌が皮膚に侵入する仲介者となったりします。
皮膚常在菌にはたくさんの種類があり、それぞれが相互に作用し合って、絶妙なバランスで肌を守っています。
たとえば、ある菌は人の分泌する皮脂などを分解して、グリセリン、オレイン酸、パルチミン酸、ステアリン酸などを生産しています。
グリセリンは肌に嬉しい保湿成分ですが、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸は皮膚刺激性がある遊離脂肪酸で、脂漏性皮膚炎や脂漏性湿疹の原因になります。
ところが皮膚常在菌たちの連携プレーはとても上手くできていて、トラブルの元になる遊離脂肪酸は、別の常在菌がちゃんと分解してくれます。皮膚常在菌のバランスが正常なら、トラブルはおきません。
以上はひとつの例ですが、他にも皮膚常在菌たちは様々に関係しあって絶妙なバランスを保っています。
pH7が中性で、それより値が大きいとアルカリ性、小さいと酸性。皮膚のpHは4.5〜6.0の弱酸性です。
肌を弱酸性に保ち、アルカリ性を好む悪玉菌をよせつけないようにするのも皮膚常在菌の重要な働きです。
肌がアルカリ性や中性になると、皮膚常在菌のアクネス菌とエピデルミディス菌が皮脂の脂肪酸などを分解してphを下げ弱酸性にします。
phが下がりすぎると、アクネス菌の分解活動が鈍くなり、エピデルミディス菌はアルカリ性物質を作りはじめます。すると下がりすぎたphが中和され、弱酸性に調整されます。
肌のphが、アルカリ性でもなく強酸性でもない、理想的な弱酸性を保てるよう、皮膚常在菌が絶妙なバランスで調整してくれているのです。
人体に害をなす菌のほとんどはアルカリ性を好むので、肌が弱酸性を保っていることは悪玉菌を防ぐ強力なバリアになります。
紫外線が肌にあたることによって発生する活性酸素は、皮膚常在菌にとっても脅威です。菌は自らを守るため、活性酸素を分解する物質を分泌しています。(カタラーゼ酵素など)結果として、活性酸素による皮膚老化から私たちの肌も守ってくれているのです。
ナノ粒子や酸化チタンなど、何かと問題の多い日焼け止めを常用するより、皮膚常在菌を大事にするほうが、長い目でみると肌のアンチエイジングになるかも。
雑誌「サイエンス」に掲載された最近の研究によると、皮膚には250種類もの菌がおり、脂・湿潤・乾燥など、肌のタイプが異なると、住んでいる菌の分布も変わるのだそう。
参考ブログ:ドイツ語好きの化学者のメモ
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/61479850.html
とても面白い研究結果だと思いませんか。将来は「菌のバランスを整えることで理想の肌タイプに近づける」なんて化粧品が出てくるかも?とはいえ、皮膚常在菌についての研究はまだこれから。よく分からない事も多いのです。
ネット上には、皮膚常在菌に夢のような素晴らしい効能があるという意見や、反対にまったく効果を認めない意見などさまざまありますが、期待しすぎず、無視をせず、ほどほどに、ニュートラルな気持ちでつきあっていきたいものです。
多様性に富んだ皮膚常在菌の生態系を壊さないよう、上手くつき合っていくコツをご紹介します。
1. 洗いすぎない
皮膚常在菌とスキンケアについてはたくさんの説があります。何が正解か、今の段階では断言できません。ひとつだけはっきり言えるのは、洗浄力の強いボディソープをたっぷりつけて毎日ゴシゴシ…というのは間違いなく菌にとって厳しいです。優しい洗浄力のもので、そっと洗いましょう。
余談ですが、皮膚常在菌スキンケアで一番極端な、何もつけず、湯でながすだけという「タモリ式入浴法」を、自分流にアレンジして実践してみました。(タモリ式入浴法とは?)
(体のみで髪と顔は除く。季節は4月〜5月。私の肌質は冬になるとかゆみの出る乾燥肌で、ときどきアトピーっぽくなります)
毎日、お茶をひとつまみ入れた湯船につかります。お茶のビタミンCが塩素を除去してくれるので、皮膚常在菌に優しいお湯になります。(ビタミンCを入れてもいいのですが、お湯が酸性になりすぎると良くないという意見があり、投入量の調整が難しいので使いづらいかも)
気になる部分のみ手で軽くこすり、石けんやボディソープは使いませんでした。結果は思ったより良好。体臭が出ることもなく、肌が脂っぽくなったり湿疹が出ることもありませんでした。
何かが劇的に良くなるということはありませんでしたが、「人の体って、洗わなくても案外大丈夫なのだな」という実感は、私にとって興味深い発見でした。
毎日洗うのと、まったく洗わないのと、たいした違いがないのだから、やはり今まで無駄に洗いすぎていたのかも。
現在は、みぞおちと背中に少しニキビができたので、2週間に1度ほど、純せっけんをタオルで泡立て、全身を洗っています。また、汗をかいた日も、ワキや足など気になる部分は石けんで洗います。将来、毎日洗う人と差がついたら面白いので、微調整しつつ気長につづけるつもりです。
以上は私の体験した極端な例ですが、自分の肌と相談しながら、自分が気持ちよく過ごせる範囲で、洗うのを少し控えてみるのはオススメです。
2. 消毒・殺菌・抗菌商品を使わない
除菌・殺菌商品は、善玉悪玉の区別なく皮膚にいる菌を殺してしまいます。その結果、皮膚常在菌のバランスが崩れ、肌荒れやニキビをひきおこすことも。病気やケガで医師の指示がある場合はともかく、除菌・殺菌をうたっている商品をむやみに肌に塗るのは避けましょう。
アクネ菌(アクネス菌)はニキビの原因として嫌われており、アクネ菌殺菌をうたった商品もいろいろあります。
アクネ菌は確かにニキビの原因にもなりますが、肌のphを整えて美肌を保つ重要な役割も担っています。それに、1種類の菌だけをピンポイントで殺す事はできませんから、アクネ菌を殺菌しようとすれば、他の有用菌も死んでしまいます。
ニキビには、アクネ菌の殺菌より食事や生活の不摂生を正すこと。よく言われる事で面白くも何ともありませんが、やはりこれが美肌の王道です。
生活を変えなくても、塗るだけでニキビも毛穴もない美肌になる「魔法の化粧品」はありません。